日頃は要介護になるまでの事前準備とか、早目の診断を受けることの大切さについてお伝えすることが多いのですが、今回は、僕自身の「身内が要介護状態になった時の心模様」を綴っていけたらと思います。
現在、僕は47歳、父親は77歳です。ごくごく普通の親子かなと思います。父親の様子が変だなとなったのは3年前、新型コロナウイルス感染症の予防接種の1回目を打ったその日の夜のことでした。自室で転倒し、あごの下に大きなあざを作っているのに、「記憶がない」と言うのです。それまで、記憶がないといったようなことはなかったので、少し慌てました。
まずは主治医である町医者にかかりましたが、「その後特に大きく変わった様子がないようであれば、自宅で様子を見てください。」とのことで、自宅で様子を見ていました。その中では変わった様子は見られなかったのですが、大きなあざになるくらいの衝撃を頭部に受けていることが気になったのと、歩くときに足が出にくいとの訴えもあったので、病院の神経内科を受診することにしました。実はこのタイミングで、介護保険の申請とサービス利用を考え出したのですが、この時点ではまだ申請すらしませんでした。気持ちのどこかに正直「まだ大丈夫だろう。」という思いがあったのです。
その後、詳しい検査を受けてみたのですが、パーキンソン症候群の疑いはあるものの、確定診断は出ませんでした。パーキンソン病のお薬を処方していただいたことで、足が出にくいといった症状は緩和されたので、そのまま様子を見ることになりました。ただその後も、「歩きにくい」という症状が大きく改善されることはなく、現状維持が精いっぱいといった感じでした。いっぽう僕はその間も「動きにくいとはいえ、身の回りのことはできているし、サービスを利用するほどでもないかな」と判断していました。徐々に父親の動きが悪くなってきているのは十分に認識していたにもかかわらず、です。
今思い返してみると、「現状を認めてしまうと、今後の不安が強くなる(直接介護の必要が出てくると困る)」という思いがあったのだろうと思います。そういった将来への不安に目を向けないようにするために、「現状維持(認定やサービスを受けない)」という選択をしていたのかなと。
そうして、なんとなくゆるゆると明確な手立てをとらずに日々を過ごしていましたが、やはりと思い立ち、要介護認定を受けるべく、この春に介護認定の申請を行いました。実はこの頃には父親自身から「サービスの利用を検討してほしい」との訴えがあったのです。ならば、と重い腰を上げ、認定調査を受けて、そろそろサービス利用を考えようかと思っていた矢先に、背部の痛みがあり入院することになったのです。原因は明確ではありませんが、無理な姿勢で長時間過ごしていたことのようでした。その時の父親の痛がり様を見たときに、「これは今後、サービス利用をお願いしないといけないな」と思いました。
その後父親は2か月の入院期間を経て退院したのですが、入院前には下肢の痺れと痛みで200mくらいしか歩けなかった状態だったのが、病院でのリハビリにより1kmくらいまで歩けるようになり、下肢の痺れはあるものの、痛みはほとんどないほどに回復していました。ただ記憶のほうは、入院時の話を聞いても「あまり覚えていない」という返答が多く、入院前の生活習慣も少し忘れているようでした。それでも随分と元気になってくれていたので、この状態を維持するためにデイサービスの利用を決断しました。
父親は今日もデイサービスに出かけていきました。リハビリに特化しているデイサービスで、それなりに楽しんでいるようです。サービスを利用するようになって、僕自身は「なんでもっと早く利用しなかったんだろう」と思うことも少なくありません。ですが、結果は3年以上かかりました。
日頃から介護サービスをご利用いただく方には「早ければ早いほうがいい」と言っているにもかかわらず、自分自身のことになると「将来への漠然とした不安」が、明確になるような気がして、サービス利用を躊躇っていたのは前述した通りです。やっぱり家族のことになると、判断が鈍るし、決断は遅れるし、思考は停止します。今回の父親とのことを通じて、ご家族の気持ちが深く理解できた気がしています。
代表取締役 植森 江助